感染性腸炎

感染性腸炎とは

感染性腸炎(Infectious enteritis )とは多種多様な病原菌の腸管感染により、発熱下痢、悪心、嘔吐、腹痛などを来す疾患群です。起因病原体別に、あるいは、散発、アウトブレイク、食品媒介感染 といったその発生状況などから分類されます。本疾患は、多種多様な病原体の関与が想定され、一定の疫学パターンを とらないことが予想されます。しかしながら、過去のデータからは、例年初冬から増加し始め12月頃に一度ピークができた後、春にもう一つなだらかな山が でき、その後初夏までだらだらと続き、年によってはもう一度小さなピークができた後、減少していくという流行パターンをとっています。ウイルス性、特にノロウイルスによる流行が12 月のピークを形成し、その後春のピークはロタウイルスによって形成され、腸炎ビブリオなど細菌性のものやいわゆる食中毒によるものが夏期の原因になっています。

病原体

多くの細菌、ウイルス、寄生虫が本疾患の起因病原体となりえます。細菌性のものでは腸炎ビブリオ、病原性大腸菌(腸管病原性大腸菌、腸管出血性大腸菌(EHEC)など)、サルモネラ、カンピロバクターなど、ウイル ス性のものではノロウイルス 、ロタウイルス、腸管アデノウイルスなどがみられます。寄生虫ではクリプトスポリジウム、アメーバ、ランブル鞭毛虫などが挙げられます。

感染様式は、地域での散発、流行疾患としては、感染患者からの糞口感染、食品媒介感染症としては、汚染された水、食品からの感染です。

症状

原因となる病原体、あるいは感染様式、感染菌量、宿主の状態により異なりますが、発熱、下痢、悪心、嘔吐、腹痛などが見られます。 当初発熱が先行し、嘔吐、下痢など腹部症状が遅れて出現することもあります。

診断

多種多様な病原体により起こるため、また、食中毒、外科的疾患、炎症性腸疾患など を鑑別するためにも、症状、所見、経過、便性状、腸管外症状、患者背景、季節性、海外渡航歴、ペットの飼育などを参考にして確定診断につなげます。検査所見では特異的なものはありませんが、一般に細菌感染症では白血球数、CRPなどの増加が見られます。当院でも院内で迅速に測定可能です。糞便の肉眼観察、顕微鏡による観察、細菌培養、便中抗原検出などが病原体診断のために行われます。 当院でも便培養、各種迅速抗原検査(ノロウイルス、ロタウイルス、クロストリジウムディフイシル)を用いて診断に努めています。

治療・予防

治療は、ウイルス性のものでは対症療法が中心となりますが、細菌性、あるいは寄生虫によるものでは病原体特異的な治療を行う必要があります。当院では軽症の場合は、整腸剤や解熱鎮痛剤の経口投与で外来経過観察となります。症状が強い場合、脱水を伴う場合、小児や高齢者では、輸液や注射による治療、場合によっては入院が必要となるため、提携医療機関へご紹介させていただく場合もあります。

種々の病原体に対する特異的な予防方法はなく、食中毒の一般的な予防方法を励行することと、ウイルス性のものに対しては、流行期の手洗いと患者との濃厚な 接触を避けることです。いずれの病原体においても院内、家庭内、あるいは集団内での二次感染の防止策を考慮することが肝要です。また、汚染された水、食品が原因となっているものでは集団食中毒の一部を捉えていることも考慮に入れ、原因を特定するために注意深い問診を行うことが、感染の拡大防止や広域集団発生の早期探知につながります。

感染症法における取り扱い(2012年7月更新)

定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)は週毎に保健所に届け出なければなりません。

学校保健安全法における取り扱い(2012年3月30日現在)

腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフスなどの定められているもの以外の、サルモネラ感染症、カンピロバクター感染症、ロタウイルス感染症、ノロウイルス感染症などは明確には定められていませんが、条件によっては、第3種の感染症の「その他の感染症」として、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまでの期間の出席停止の措置が必要と考えられます。

各病原体の特徴

<細菌性>
腸炎ビブリオ:夏に魚介類の生食で発生。潜伏期は6~20時間で、発熱、激しい下痢、血便、腹痛を来す。2,3日で回復し予後良好。食前加熱、水洗いが有効。
病原性大腸菌:糞便に汚染された水、食品などから感染。途上国で多い。コレラ様の水様下痢が特徴。潜伏期1~10日、乳幼児では重症化。食前加熱、手指消毒で予防。
腸管出血性大腸菌:牛の腸管に生息。O157が最多。生の牛肉、汚染された野菜などから感染。潜伏期は1~9日。数%で溶血性尿毒症症候群を発症し重症化する。小児と高齢者では死亡例あり。食前加熱で予防。最近では2011年の焼肉酒家えびすのゆっけ集団食中毒事件が有名。
サルモネラ:生卵、食肉、ミドリガメなどから感染。潜伏期は6~72時間。1週間以内に回復。
カンピロバクター:鶏肉などから感染。潜伏期は2~5日。1~2週間で回復。予防は生肉(鶏肉)を食べないこと。
<細菌性毒素型>
ブドウ球菌:人に常在、手の傷や鼻から弁当などの食べ物へ感染し菌が増殖。それを摂取する潜伏期間1~6時間で、嘔吐、腹痛、下痢を来す。発熱は見られない。毒素のため抗生物質は無効。速やかに回復する。
ボツリヌス菌:いずし、真空パック製品、缶詰・瓶詰製品などから感染。1984年のからしレンコン事例が有名。潜伏期は18~48時間で軽度の消化器症状、その後羞明・眼瞼下垂などの眼症状、発声困難や嚥下困難、続いて呼吸困難を来す。発熱や意識障害は見られない。呼吸筋麻痺で死亡する。治療は抗毒素血清、人工呼吸。乳児ボツリヌス症は主にボツリヌスの芽胞を含んだはちみつを摂取して発症する。1歳未満の乳児に発症。成人の腸では芽胞は増殖しないが、乳児の腸で発芽し増殖、毒素を産生する。麻痺を来すが予後は良好。乳児にはちみつを与えてはいけません。
ウェルシュ菌:食肉や魚を使った加工品で発生。カレーやシチューなどを冷蔵保存・密閉保存して、再加熱すると、残ったウェルシュ菌が増殖する。6~18時間で発症し腹痛、下痢を来す。1,2日で軽快。
<ウイルス性>
ノロウイルス:経口感染、接触感染で感染。食中毒の場合は生ガキが有名。感染力が強く、冬季に集団発生する。潜伏期間は24時間~48時間で、激しい嘔吐、下痢などを来すが1,2日で治癒。詳しくはノロウイルス腸炎の項を参照。
ロタウイルス:通常小児に発症。感染力が非常に強い。潜伏期間は2日間で白色の下痢、嘔気、嘔吐、発熱、腹痛を来し、通常1~2週間で軽快。乳幼児では重症化し死亡例あり。成人でも発症する。ワクチンで予防が可能。詳しくはロタウイルス胃腸炎の項を参照。

 

参考文献:「感染性腸炎とは」(国立感染症研究所)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/383-intestinal-intro.html)を加工して作成