はじめに
人間の内臓は横隔膜という筋肉の膜で、胸腔と腹腔に分かれています(下図)。胸腔には肺や心臓、食道などがあり、腹腔には胃や肝臓、小腸や大腸などがあります。口から食べた食物は胸腔にある食道を通って、横隔膜にある食道が通る穴(食道裂孔)を通過して、腹腔内にある胃に入ります。
食道裂孔は筋肉や靱帯で支えられていますが、先天的な要因や加齢、肥満・妊娠による腹圧の上昇、円背などのため、裂孔が緩んでしまい、本来横隔膜の下部にあるべき胃の一部が胸腔内に飛び出してしまうのが食道裂孔ヘルニアです。
食道裂孔ヘルニアは下図のように3つのタイプに分類されます。胃の噴門部が横隔膜を越えて胸部側へ均一に脱出する滑脱型が最も多く90%前後を占めます。
症状
食道裂孔ヘルニア自体は構造的な異常にすぎず、無症状のことも多いです。しかし食道裂孔ヘルニアがあることで、胃酸が食道に逆流しやすくなり、胸やけや呑酸、げっぷ、咽頭違和感、咳などの逆流症状(逆流性食道炎の項参照)を来します。傍食道型や高度の滑脱ヘルニアでは、胸腔を圧迫するため、胸部圧迫感や呼吸困難、動悸などの症状を起こすこともあります。また食道炎が高度になれば、嚥下困難や嚥下時の痛みも現れます。
診断
当院では通常は胃内視鏡検査にて診断されます。食道側からの観察では食道裂孔が緩くなっているのが確認できます。また内視鏡を反転すると、噴門部に隙間がみられ、食道胃接合部が胸腔内へ持ち上がっているのが確認できます。内視鏡検査では同時に逆流性食道炎の有無やバレット食道の有無も確認します。また胸部レントゲンやX線造影検査、CTで診断されることもあります。
治療
無症状であれば通常は治療は必要ありません。症状がある場合は食生活の改善や生活習慣の改善を指導します。脂肪分の多い食事を好む、食べ過ぎ、早食い、食後にすぐに横になる、肥満、などがあれば指導を行います。それでも改善のない場合は、胃酸の分泌を抑える薬、消化管を動かす薬などを処方させていただきます。内科的治療に抵抗性、呼吸困難、食道狭窄などの強い症状がある場合は手術を行う場合もあります。
気になる症状がおありの方は、当院へご相談ください。