はじめに
口から食べた食物は胃や十二指腸を通って、小腸、大腸を経て消化吸収され、肛門より便として排泄されます。腸閉塞(イレウス)とは、種々の原因により、小腸や大腸の内容物が、うまく肛門まで通過しなくなった状態を指します。
原因と分類
腸閉塞は以下のように分類されます。
機械的イレウス:器質的異常による腸管の狭窄、閉塞で、イレウスの90%を占めます。さらに機械的イレウスは血流障害を伴わない単純性イレウス(閉塞性イレウス)と血流障害を伴う複雑性イレウス(絞扼性イレウス)に分類されます。
単純性イレウスの原因として多いのは、術後の癒着によるものです。また腫瘍やクローン病などの炎症でも起こります。また結石や食べ物(餅、しいたけなど)による異物でも発生します。
複雑性イレウスの原因となるものには、癒着のほか、ヘルニアの嵌頓、腸重積、腸捻転です。
機能的イレウス:器質的異常を伴わないもので、腸管の運動麻痺や痙攣により腸管内容物が停滞することで起こります。麻痺性イレウスと痙攣性イレウスに分類されます。麻痺性イレウスの原因となるものに、腹膜炎、開腹術後、脊髄損傷、精神疾患などが挙げられます。
症状
腸管の内容物が停滞するため腹部膨満感、嘔気、嘔吐が起こります。また排便や排ガスが見られなくなります。腸管内の圧力が高まることから、腹部全体の腹痛がみられます。単純性イレウスでは徐々に間欠的な痛みを来すことが多いですが、絞扼性イレウスでは腸管が圧迫されて血流障害を来していることから、急激で持続する強い痛みが特徴です。機能性イレウスでは腹痛はあっても軽度です。
診断
症状から比較的診断は容易ですが、診察所見として腹部の膨満や腸雑音の異常が認められます。機械的イレウスでは腸蠕動音が亢進し、金属音も認めます。一方、麻痺性イレウスでは腸蠕動音の低下が特徴です。絞扼性イレウスの場合は、腹部触診にて強い圧痛を認め、腹膜刺激症状を伴います。腸閉塞が進めば、腸管の壊死や穿孔を来すこともあり、その場合発熱やバイタルサインの異常を認めることもあります。
腸閉塞を疑う患者さんに対して、当院では採血検査、腹部単純レントゲン撮影を行います。感染を伴っていれば、白血球やCRPの上昇を認めます。また脱水の進行により、ヘモグロビン、BUN、クレアチニンの上昇を認めます。腸管が壊死すれば、LDHやCKも上昇します。腸閉塞の診断において、もっとも有用な検査はレントゲンですが、閉塞部より口側の腸管が拡張し、ガスの貯留像や鏡面像を認めます。腸管の襞や、拡張腸管の分布から、閉塞部位の推定もある程度可能です。
治療
腸閉塞と診断、または疑われる場合は、提携医療機関にてCT検査や、場合によっては入院での治療が必要となりますので、速やかにご紹介させていただきます。
一般的な治療方針ですが、単純性イレウスや機能的イレウスの場合は、絶食、輸液、イレウス管の留置にて自然に解除する場合が多いです。しかしながら1週間以上経過する場合や、繰り返す場合は手術の適応となります。絞扼性イレウスの場合は、腸管の血流が障害されており、放置すれば腸管が壊死→穿孔→腹膜炎→敗血症性ショックとなり死に至ることから、速やかな手術が必要です。
いずれの腸閉塞であっても、適切な対応がなされれば予後は良好です。しかしながら、特に癒着性イレウスの場合、保存的治療、手術療法のいずれにおいても、高率に再発することが知られています。