風疹

はじめに

風疹(rubella)は、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症で、症状は不顕性感染(感染していても気付かない)から、重篤な合併症併発まで幅広く、臨床症状のみで風疹と診断することは困難な疾患です。風疹に感受性のある妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、出生児が先天性風疹症候群を発症する可能性があり注意が必要です。男女ともがワクチンを受けて、まず風疹の流行を抑制し、女性は感染予防に必要な免疫を妊娠前に獲得しておくことが重要です。

※風疹抗体検査については、さいたま市在住で所定の要件を満たす方は無料で検査を受けられます。詳しくはこちら>(さいたま市のページ)、追加的対策についてはこちら>(さいたま市のページ)

疫学

1990年代前半までの我が国では、5~6年ごとに大規模な全国流行がみられていました(1976、1982、1987、1992年)。男女幼児が定期接種の対象になってから、大規模な全国流行は見られなくなりましたが、2004年に、推計患者数約4万人の流行があり、10人の先天性風疹症候群が報告されました。感染症発生動向調査では、2007年までは全国約3,000カ所の小児科定点より報告される定点把握疾患でしたが、2008年から5類感染症全数把握疾患に変更となり、すべての医師に最寄りの保健所への届出が義務づけられました。2011年にアジアで大規模な風疹流行が発生し、海外で感染を受けて帰国した後に風疹を発症する成人男性と職場での集団発生が散発的に報告されるようになりました。2010年に87人であった報告数は2011年に378人となり、2012年には2,392人(暫定数)となりました。2013年は患者数が更に急増しました。報告患者の9割が成人であり、男性が女性の約3.5倍です。男性は20~40代に多く、女性は20代に多いです。この流行の特徴は、我が国の風疹の定期予防接種の制度(後述)で説明できます。

病原体

風疹ウイルスはTogavirusRubivirus属に属する直径60〜70nmの(+)鎖の一本鎖RNAウイルスで、エンベロープを有します。血清学的には亜型のない単一のウイルスで、E1蛋白質の遺伝子解析によって13の遺伝子型に分類されています。2004年の流行では1jが主流でしたが、2012年以降、国内では検出されていません。2011年以降、南・東・東南アジアで流行中の2Bと1Eが国内に侵入し、これらが定着し拡大しています。上気道粘膜より排泄されるウイルスが飛沫を介して伝播されます

臨床症状

感染から14〜21日(平均16〜18 日)の潜伏期間の後、発熱、発疹、リンパ節腫脹(ことに耳介後部、後頭部、頚部)が出現しますが、発熱は風疹患者の約半数にみられる程度です。また不顕性感染が15(~30)%程度存在します。3徴候のいずれかを欠くものについての臨床診断は困難であることに加え、溶血性連鎖球菌による発疹、伝染性紅斑、修飾麻疹、エンテロウイルス感染症、伝染性単核球症など似た症状を示す発熱発疹性疾患や薬疹との鑑別が必要になり、確定診断のためには検査室診断を要します。

多くの場合、発疹は淡紅色で、小さく、皮膚面よりやや隆起しており、全身に広がるにはさらに数日間を要することがあります。通常色素沈着や落屑はみられませんが、発疹が強度の場合にはこれらを伴うこともあります。リンパ節は発疹の出現する数日前より腫れはじめ、3〜6週間位持続します。カタル症状、眼球結膜の充血を伴いますが、これも麻疹に比して軽症です。ウイルスの排泄期間は発疹出現の前後約1週間とされていますが、解熱すると排泄されるウイルス量は激減し、急速に感染力は消失します

基本的には予後良好な疾患ですが、高熱が持続したり、血小板減少性紫斑病(1/3,000〜5,000人)、急性脳炎(1/4,000〜6,000人)などの合併症により、入院が必要になることがあります。成人では、手指のこわばりや痛みを訴えることも多く、関節炎を伴うこともあります(5〜30%)が、そのほとんどは一過性です。

風疹に伴う最大の問題は、感受性のある妊娠20週頃までの妊婦が感染したことにより、風疹ウイルス感染が胎児におよび、先天異常を含む様々な症状を呈する先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)が出現することにあります。妊娠中の感染時期により重症度、症状の種類が様々ですが、先天異常として発生するものとしては、先天性心疾患(動脈管開存症が多い)、難聴、白内障、色素性網膜症などが挙げられます。先天異常以外に新生児期に出現する症状としては、低出生体重、血小板減少性紫斑病、溶血性貧血、黄疸、間質性肺炎、髄膜脳炎などが挙げられます。また、進行性風疹全脳炎、糖尿病、精神運動発達遅滞などが見られることもあります。。

病原診断

ウイルスの分離が基本ではありますが通常は行われません。血清診断は健康保険適応になっており、一般的に最も多く用いられています。赤血球凝集抑制反応(HI)、酵素抗体法(ELISA)が代表的で、急性期と回復期のペア血清で、抗体価が陽転あるいは有意上昇(HI法:4倍以上、EIA法:2倍以上)することにより診断します。急性期に風疹特異的IgM抗体が検出されれば、単一血清での診断も可能ですが、発疹出現3日以内では陽性になっていない場合もあり(偽陰性)、発疹出現後4日以降に再検査が必要となります。一方、風疹以外の疾患で弱陽性になる場合があることや(偽陽性)、長期間風疹IgM抗体価の弱陽性が続く症例があることが報告されています。

治療・予防

発熱、関節炎などに対しては解熱鎮痛剤が用いられますが、特異的な治療法はなく、症状を和らげる対症療法のみです。

予防に関しては弱毒生ワクチンが実用化され、広く使われています。2006年度からMR(麻疹・風疹)混合ワクチンが定期接種に導入され、1歳と小学校入学前1年間の幼児(6歳になる年度)の2回接種となっています。1歳になったら早めに受けることが勧められます。

※風疹抗体検査については、さいたま市在住で所定の要件を満たす方は無料で検査を受けられます。詳しくはこちら>(さいたま市のページ)、追加的対策についてはこちら>(さいたま市のページ)

 

感染症法における取り扱い (2013年5月1日現在)

「風しん」および「先天性風しん症候群」はいずれも全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければなりません。

学校保健安全法における取り扱い (2013年5月1日現在)

風しんは第2種の学校感染症に定められており、発疹が消失するまで出席停止とされています。ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りでありません。
また、以下の場合も出席停止期間となります。

  • 患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
  • 発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
  • 流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

参考文献:「風疹とは」(国立感染症研究所)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/430-rubella-intro.html)を加工して作成