ロタウイルス胃腸炎

ロタウイルス胃腸炎とは

ロタウイルスによって引き起こされる急性の胃腸炎で、乳幼児期(0~6歳頃)にかかりやすい病気です。ロタウイルスは感染力が強く、ごくわずかなウイルスが体内に入るだけで感染してしまいます。5歳までにほぼすべての子どもがロタウイルスに感染するといわれています。大人はロタウイルスの感染を何度も経験しているため、ほとんどの場合、症状が出ません。しかし、乳幼児は、激しい症状が出ることが多く、特に初めて感染したときに症状が強く出ます。主な症状は、水様下痢、嘔気、嘔吐、発熱、腹痛です。脱水症状がひどくなると点滴が必要となったり、入院が必要になることがあります。5歳までの急性胃腸炎の入院患者のうち、40~50%前後はロタウイルスが原因です。

疫学

就学前の子どもの約半数がロタウイルス感染症で小児科外来を受診するとされています。この推計に基づいて人口統計から患者数を計算すると、日本の患者数は年間80万人ぐらいで、そのうち15~43人に1人(26,500~78,000人ほど)が入院していると推計されています。例年、3月から5月にかけて乳幼児を中心に胃腸炎の流行が起こり、この中にロタウイルスによる胃腸炎が多く含まれています。

ロタウイルス性胃腸炎による死亡例は、日本国内で毎年2~18名が報告されています(平成12年~24年厚生労働省人口動態統計)。

ロタウイルスは、発展途上国、先進国など衛生環境の差にあまり関係なく、世界中の人々に広く感染しています。ロタウイルスは感染力が強く、容易に拡大していきます。そのため、衛生状態がよい先進国でもその感染予防はきわめて難しく、生後6カ月から2歳をピークに、5歳までに世界中のほぼすべての子どもがロタウイルスに感染するとされています。先進国では、乳幼児がロタウイルス感染症で重症化しても、すぐに入院などの対応がとれるため、死亡例はごく少数です。しかし、医療機関が整備されていない発展途上国では、ロタウイルス感染症の重症化により死亡する乳幼児が多く存在します。

病原体

ロタウイルスは、ノロウイルスの倍ぐらいの大きさで、直径約100ナノメートル(1万分の1ミリメートル)のウイルスです。感染者の下痢便1グラムの中には1000億から1兆個のロタウイルスが含まれているといわれています。便に含まれるウイルスの量が多いことで知られているノロウイルスと比べても、その100万倍ものウイルス量です。「ロタ」とはラテン語で車輪という意味で、電子顕微鏡で見ると車輪のような形をしています。

感染経路

10~100個くらいのロタウイルスが口から入ることで感染します。ロタウイルスは、ロタウイルスによる胃腸炎の患者の便に大量に含まれています。患者の便を処理した後、たとえ十分に手洗いをしても、手や爪に数億個ものウイルスが残っていることがあり、ロタウイルスが付いた手などから感染が広がっていきます。

症状

ロタウイルスは、乳幼児の急性重症胃腸炎の主な原因ウイルスとして知られています。ロタウイルスに感染すると、2~4日の潜伏期間の後、水のような下痢や嘔吐が繰り返し起こります。その後、重い脱水症状が数日間続くことがあります。発熱や腹部の不快感などもよくみられます。合併症として、けいれん、肝機能異常、急性腎不全、脳症、心筋炎などが起こることがあり、死に至る場合もあります。意識の低下やけいれん等の症状が見られたら、速やかに医療機関を受診してください。

診断

患者の症状や家族など周囲の感染状況などを総合的に判断して、ロタウイルスを原因と推定して診療が行われることが多いと考えられます。しかし症状だけでロタウイルスの確定診断はできません。

最も多く用いられているロタウイルス胃腸炎の診断法は、便を用いて15~20分程度で結果が判明する迅速診断検査(イムノクロマト法)です。この検査には健康保険が適用されます。当院でも施行可能です。ただし、この検査法は、結果が早く出るメリットがありますが、ロタウイルスに感染していても陽性とならない場合もあります。

治療

現在、ロタウイルスに効果のある抗ウイルス剤はありません。このため、脱水を防ぐための水分補給や体力を消耗したりしないように栄養を補給することなどが治療の中心になります。脱水症状がひどい場合には医療機関で点滴を行うなどの治療が必要になります。 下痢止め薬(止しゃ薬)は、病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましいでしょう。

予防

感染を広げないようにするには、オムツの適切な処理、手洗いの徹底などが必要です。オムツを交換するときには使い捨てのゴム手袋などを使い、捨てる場合はポリ袋などに入れます。手洗いは指輪や時計をはずし、せっけんで30秒以上もみ洗いします。衣類が便や吐物で汚れたときは、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)でつけおき消毒した後、他の衣類と分けて洗濯しましょう。ロタウイルスにはアルコールなどの消毒薬ではあまり効き目がありません

これらの取組を行ってもロタウイルスは感染力が非常に強いので、感染を完全に予防することは困難です。日本では、2種類のロタウイルスのワクチン(単価と5価)が承認されていて、任意で接種を受けることができます。対象者はいずれのワクチンも乳児であり、具体的な接種期間は、単価ロタウイルスワクチン(2回接種)の場合は生後6~24週の間、5価ロタウイルスワクチン(3回接種)の場合は生後6~32週の間です。ただし、どちらのワクチンも1回目の接種は14週6日までが推奨されます。詳細については、当院にご相談ください。

参考文献:

「ロタウイルスに関するQ&A」(厚生労働省)(www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/)を加工して作成