伝染性紅斑(リンゴ病)

伝染性紅斑とは

伝染性紅斑(Erythema infectiosum)は第5病(Fifth disease)とも呼ばれ、頬に出現する蝶翼状の紅斑を特徴とし、小児を中心にしてみられる流行性発疹性疾患です。両頬がリンゴのように赤くなることから、「リンゴ(ほっぺ)病」と呼ばれることもあります。本症の病因は長く不明でしたが、1983年にヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19:以下B19)であることが提唱さ れ、その後の研究によって確実なものとなりました。病因が明らかになったことに伴って、本症の周辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、多彩な臨床像があることなども明らかになりました。

疫学

感染症発生動向調査(1981年7月から)によると、1987年、1992年、1997年、2001年とほぼ5年ごとの流行周期で発生数の増加がみられています。年によって若干のパターンの違いはあるものの、年始から7月上旬頃にかけて症例数が増加し、9月頃症例が最も少なくなる季節性を示しますが、流行が小さい年には、はっきりした季節性がみられないこともあります。同調査で得られた患者の年齢分布(5歳毎)では5〜9歳での発生がもっとも多く、ついで0〜4歳が多いです。小児科定点疾患としての調査であるため、成人における発生状況の詳細は不明ですが、臨床の場ではしばしば経験され、看護学生・看護師などの病院内感染による成人での集団感染事例の報告もあります。

病原体

単鎖DNAウイルスの、パルボウイルス科パルボウイルス亜科エリスロウイルス属に属するヒトパルボウイルスB19です。正式名称としてエリスロウイルスB19が提唱されていますが、ヒトパル ボウイルスB19(または、単にパルボウイルスB19)の名称が依然として一般的に用いられています。

臨床症状

 

10〜20日の潜伏期間の後、頬に境界鮮明な紅い発疹(蝶翼状−リンゴの頬)が現れ(写真左)、 続いて手・足に網目状・レ−ス状・環状などと表現される発疹がみられます(写真右)。胸腹背部 にもこの発疹が出現することがあります。これらの発疹は1 週間前後で消失しますが、なかには長引いたり、一度消えた発疹が短期間のうちに再び出現することがあります。成人では関節痛・頭痛などを訴え、関節炎症状により1〜2日歩行困難になることがありますが、ほとんどは合併症をおこすことなく自然に回復します。なお、頬に発疹が出現する7〜10日くらい前に、微熱や感冒様症状などの前駆症 状が見られることが多いですが、この時期にウイルス血症を おこしており、ウイルスの排泄量ももっとも多くなります。発疹が現れたときにはウイルス血症は終息しており、ウイルス の排泄はほとんどなく、感染力はほぼ消失しています。通常は飛沫または接触感染ですが、ウイルス血症の時期に採取された輸血用血液による感染もあります。

伝染性紅斑は当初異型の風疹として発表され、その後独立疾患であることが確立されました。これまでも、伝染性紅斑は風 疹の流行時期と重なることが少なくなく、典型的な伝染性紅斑では臨床診断を誤ることはないですが、非典型例では風疹との鑑 別が困難です。英国において行われた血清調査では、風疹と診断された患者の半数がB19感染であったことが述べられています。また不顕性感染があり、特に成人に多いです。さらに、 成人では発症しても典型的な発疹を伴う頻度が低く、風疹と診断されている例は小児より多いと推察されます。

B19感染像の拡がり:伝染性紅斑のみではないB19感染症
伝染性紅斑は典型的なB19感染症の臨床像ですが、B19感染症の臨床像は単に伝染性紅斑にとどまりません。溶血性貧血患者がB19感染を受けると重症の貧血発作(aplastic crisis)を生ずることがある他、関節炎・関節リウマチ、血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群 (VAHS/HPS)や、免疫異常者における持続感染なども伝染性紅斑に合併、あるいは独立してみられます。

胎児感染:胎児水腫
B19感染症で注意すべきものの一つとして、妊婦感染による胎児の異常(胎児水腫)および流産があります。妊娠前半期の感染の方がより危険であり、胎児死亡は感染から4〜6週後に生ずることが報告されていますが、妊娠後半期でも胎児感染は生ずるとの報告もあり、安全な時期について特定することはできません。しかし一方では、妊婦のB19感染が即胎児の異常に結びつくものではなく、伝染性紅斑を発症した妊婦から出生し、B19感染が確認された新生児でも妊娠分 娩の経過が正常で、出生後の発育も正常であることが多いです。さらに、生存児での先天異常は 知られていません。したがって、妊婦の風疹感染ほどの危険性は少ないですが、超音波断層検査などで胎児の状態をよく把握することが必要です。

病原診断

ウイルスを分離することが病原診断の基本ですが、B19は骨髄、胎児肝、臍帯血などの赤 芽球系前駆細胞と、一部の赤白血病細胞株でしか増殖できず、通常の組織培養を用いたウイルス分離培養は現在のところ困難です。PCR法による遺伝子の検出も可能ですが、B19を 対象にする場合、健康保険による診療での制約があります。したがって、殆どの場合血清学的診 断を行いますが、ペア血清について酵素抗体法(ELISA)により特異的IgG抗体の上昇を確認するか、 あるいは、急性期に特異的IgM抗体を検出することで診断します。

治療・予防

特異的な治療法はなく、対症療法のみです。免疫不全者における持続感染、溶血性貧血患者などではγ-グロブリン製剤の投与が有効なことがあります。
前述したとおり、紅斑の時期にはほとんど感染力がないので、二次感染予防策の必要はありません。また、ウイルス排泄期には特徴的な症状を示さないので、実際的な二次感染予防策もありません。現在のところワクチンはありません。妊婦などは、流行時期に感冒様症状の者に近づくことを避け、万一感染した場合には、胎児の状態を注意深く観察する必要があります。

感染症法における取り扱い(2012年7月更新)

定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)は週毎に保健所に届け出なければなりません。

学校保健安全法における取り扱い(2012年3月30日現在)

明確には定められていませんが、条件によっては、第3種の感染症の「その他の感染症」として、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまでの期間の出席停止の措置が必要と考えられます。

 

「伝染性紅斑とは」(国立感染症研究所)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/443-5th-disease.html)を加工して作成