マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎とは

マイコプラズマ肺炎は冬季に、小児に流行する呼吸器感染症の一つです。潜伏期は通常2~3週間で、初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などですが、3~5日後から頑固な乾性咳嗽が比較的長期に続きます。以前は定型的な細菌性肺炎と違って、重症感が少なく異型肺炎に分類されてきました。しかし、小児や高齢者では重症肺炎となったり、COPDや喘息などの基礎疾患がある場合、増悪のきっかけとなってしまうため注意が必要です。

疫学

本邦での感染症発生動向調査からは、晩秋から早春にかけて報告数が多くなり、罹患年齢は幼児期、学童期、青年期が中心です。病原体分離例でみると7~8歳にピークがあります。本邦では従来4 年周期でオリンピックのある年に流行を繰り返してきましたが、近年この傾向は崩れつつあり、1984 年と1988年に大きな流行があって以降は大きな全国流行はありません。

病原体

病原体は肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae )ですがが、これは自己増殖可能な最小の微生物で、生物学的には細菌に分類されます。他の細菌と異なり細胞壁を持たないので、多形態性を示し、ペニシリン、セフェムなどの細胞壁合成阻害の抗菌薬には感受性がありません。肺炎マイコプラズマは熱に弱く、界面活性剤によっても失活します。
感染様式は感染患者からの飛沫感染と接触感染によりますが、濃厚接触が必要と考えられており、地域での感染拡大の速度は遅いです。感染の拡大は通常閉鎖集団などではみられますが、学校などでの短時間での暴露による感染拡大の可能性は高くなく、友人間での濃厚接触によるものが重要とされています。病原体は侵入後、粘膜表面の細胞外で増殖を開始し、上気道、あるいは気管、気管支、細気管支、肺胞などの下気道の粘膜上皮を破壊します。気道粘液への病原体の排出は初発症状発現前2~8日でみられるとされ、臨床症状発現時にピークとなり、高いレベルが約1 週間続いたあと、4~6週間以上排出が続きます
感染により特異抗体が産生されますが、生涯続くものではなく徐々に減衰していきますが、その期間は様々であり、再感染もよく見られます。

臨床症状

潜伏期は通常2~3週間で、初発症状は発熱、全身倦怠、頭痛などでです。咳は初発症状出現後3~5日から始まることが多く、当初は乾性の咳ですが、経過に従い咳は徐々に強くなり、解熱後も長く続きます(3~4週間)。特に年長児や青年では、後期には湿性の咳となることが多いです。鼻炎症状は本疾患では典型的ではないですが、幼児ではより頻繁に見られます。嗄声、耳痛、咽頭痛、消化器症状、そして胸痛は約25%で見られ、また、皮疹は報告により差があるが6~17%です。喘息様気管支炎を呈することは比較的多く、急性期には40%で喘鳴が認められます。昔から「異型肺炎」として、肺炎にしては元気で一般状態も悪くないことが特徴であるとされてきましたが、重症肺炎となることもあります
他に合併症としては、中耳炎、無菌性髄膜炎、脳炎、肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群など多彩なものが含まれます。
理学的所見では聴診上乾性ラ音が多いですが、胸部レントゲン上異常陰影があっても聴診上異常を認めない症例があり、胸部レントゲン検査が欠かせません。マイコプラズマ肺炎確定例では、大葉性肺炎像、肺胞性陰影、間質性陰影、これらの混在など、多様なパターンをとることが知られています。血液検査所見では白血球数は正常もしくは増加し、赤沈は亢進、CRP は中等度以上の陽性を示し、AST 、ALT の上昇を一過性にみとめることも多いです。

診断

当院ではマイコプラズマ抗原迅速診断キットを用いて診断します。15分で診断可能です。症状や周囲の流行状況、身体所見、胸部レントゲン所見など総合的に判断して、検査するかどうかを決定します。

治療

抗菌薬が基本ですが、ペニシリン系やセフェム系などのβ‐ ラクタム剤は効果がなく、マクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系薬剤が用いられます。一般的には、マクロライド系のエリスロマイシン、クラリスロマイシンなどを第一選択としますが、マクロライド耐性菌が問題となっています。学童期以降ではテトラサイクリン系のミノサイクリンも使用されます。特異的な予防方法はなく、流行期には手洗い、うがいなどの一般的な予防方法の励行と、患者との濃厚な接触を避けることが重要です。

学校保健安全法における取り扱い(2012年3月30日現在)

明確には定められていませんが、条件によっては、第3種の感染症の「その他の感染症」として、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまでの期間の出席停止の措置が必要と考えられます。

 

「マイコプラズマ肺炎とは」(国立感染症研究所)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/503-mycoplasma-pneumoniae.html)を加工して作成