手足口病

手足口病とは

手足口病(hand, foot and mouth disease:HFMD)は、その名が示すとおり、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス感染症で、1950年代後半に認識されたウイルス性発疹症であり、我が国では1967年頃からその存在が明らかになりました。本疾患はコクサッキーA16(CA16)、CA6、エンテロウイルス71(EV71)などのエンテロウイルスが原因ウイルスです。基本的に予後は良好な疾患ですが、急性髄膜炎の合併が時に見られ、稀であるが急性脳炎を生ずることもあり、なかでもEV71は中枢神経系合併症の発生率が他のウイルスより高いことが知られています。本疾患は4歳位までの幼児を中心に夏季に流行が見られる疾患であり、2歳以下が半数を占めますが、学童でも流行的発生がみられることがあります。また、学童以上の年齢層の大半は既にこれらのウイルスの感染(不顕性感染も含む)を受けている場合が多いので、成人での発症はあまり多くなく、男子に多い傾向が見られます。

疫学

感染症発生動向調査によると、国内における手足口病流行のピークは夏季ですが、秋から冬にかけても多少の発生が見られます。2000年以降では、EV71が2000年、2003年、2006年および2010年に流行し、CA16は2002年、2008年および2011年に流行しました。2011年と2013年はCA6による手足口病の大きな流行が見られました 。1997年4~6月にマレーシア・サラワクでは手足口病の大流行が見られ、急速な経過で死亡する例が30例以上報告されました。1998年2月頃より台湾において手足口病が増加し、5月をピークとする大流行となりました。手足口病に関連する髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis:AFP)などが相次ぎ、EV71が分離され、12月までに台湾全土で死亡が78例と報告されました。この時期から、東アジア地域を中心として、多数の死亡例を伴う大規模な手足口病流行が断続的に発生しています。近年では中国(2008~2010年、2010年は死亡例905例)やベトナム(2011年)で死亡例が報告されています。国内においては1997年大阪で、HFMDの発生状況は例年をやや下回る程度でしたが、手足口病あるいはEV71感染と関連が濃厚な小児の死亡例が3例報告されました。3例ともに急性脳炎と肺水腫が認められました。その後、2000年6~8月に兵庫県で脳炎による死亡例を含むHFMDの流行がみられ、EV71が検出されています。

病原体

CA16、EV71、さらにCA6などのエンテロウイルス(A群エンテロウイルス, Enterovirus A)が病因となります。ヒト-ヒト伝播は主として咽頭から排泄されるウイルスによる飛沫感染でおこるが、便中に排泄されたウイルスによる経口感染、水疱内容物からの感染などがあります。便中へのウイルスの排泄は長期間にわたり、症状が消失した患者も2~4週間にわたり感染源になります。腸管で増殖したウイルスがウイルス血症後中枢神経系(特にEV71)に到達する と、中枢神経症状を起こしえます。一度手足口病を発病すると、その病因ウイルスに対しての免疫は成立しますが、他のウイルスによる手足口病を起こすことは免れません。

症状

通常のCA16およびEV71による手足口では3~5日の潜伏期をおいて、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹が出現します(上図)。時に肘、膝、臀部などにも出現することもあります。口腔粘膜では小潰瘍を形成することもあります。発熱は約1/3に見られますが軽度であり、38℃以下のことがほとんどです。通常は3~7日の経過で消退し、水疱が痂皮を形成することはありません。稀には幼児を中心とした髄膜炎、小脳失調症、AFP、脳炎などの中枢神経系合 併症を生ずることもあります。 特に、EV71による場合には、中枢神経系合併症に注意する必要があります。近年のアジア地域における重症例の多くは、EV71急性脳炎に伴う中枢神経合併症によるものと考えられています。

近年のコクサッキーA6による手足口病では、従来のHFMDと発疹の出現部位が異なり、水疱は扁平で臍窩を認め、これまでより大きいことや、手足口病発症後、数週間後に爪脱落が起こる症例(爪甲脱落症)が報告されています。

病原診断

通常は臨床的になされることが多く、水疱性発疹の性状、分布が重要であり、季節や周囲での流行状況などが参考となります。鑑別診断としては、口腔内水疱についてはヘルパンギーナ、ヘルペスウイルスによる歯肉口内炎、アフタ性口内炎などが挙げられます。手足の発疹に関しては、水痘の初期疹、ストロフルス、伝染性軟疣腫(水いぼ)などが鑑別の対象となります。

病原診断としてはウイルス分離・検出が重要です。その場合、臨床材料として水疱内容物、咽頭拭い液、便、直腸拭い液などが用いられます。血清診断は補助的ですが、行う場合には、エンテロウイルス間での交差反応がない中和抗体の測定が勧められます。急性期と回復期の血清で4倍以上の抗体価上昇により診断します。

治療・予防

特異的な治療法はありません。抗生剤の投与は意味がなく、合併症を生じた場合の特異的な治療法は確立されていません。発疹にかゆみなどを伴うことは稀であり、抗ヒスタミン剤の塗布を行うことはありますが、通常は外用薬として副腎皮質ステロイド剤は用いません。口腔内病変に対しては、刺激にならないよう柔らかめで薄味の食べ物を勧めますが、何よりも水分不足にならないようにすることが最も重要です。経口補液などで水分を少量頻回に与えるよう努めます。ときには経静脈的補液も必要となります。発熱に対しては通常解熱剤なしで経過観察が可能です。しかし、元気がない、頭痛、嘔吐、高熱、2日以上続く発熱などの場合には髄膜炎、脳炎などへの進展を注意します。 予防としては有症状中の接触予防策および飛まつ予防策が重要であり、特に手洗いの励行などは重要です。患者あるいは回復者に対しても、特に排便後の手洗いを徹底させます。 なお、重症例が多く報告されている台湾および中国を中心としたアジア諸国では、実用化を目指したEV71(手足口病)ワクチン開発が進められています。

感染症法における取り扱い

手足口病は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告がなされています。

学校保健法での取り扱い

手足口病は、学校で予防すべき伝染病1~3種に含まれていません。主症状から回復した後もウイルスは長期にわたって排泄されることがあるので、急性期のみ登校登園停止を行って、学校・幼稚園・保育園などでの流行阻止をねらっても、効果はあまり期待ができません。本疾患の大部分は軽症疾患であり、集団としての問題は少ないため、発疹だけの患児に長期の欠席を強いる必要はなく、また現実的ではありません。通常の流行状況での登校登園の問題については、流行阻止の目的というよりも患者本人の症状や状態によって判断すればよいと考えられます。

 

参考文献:

「手足口病とは」(国立感染症研究所)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.html)を加工して作成