はじめに
熱中症とは体温を平熱に保つために汗をかき、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)の減少や血液の 流れが滞るなどして、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害の総称です。高温環境下に長期間いたとき、あるいはいた後の体調不良はすべて熱中症の可能性があります。 放置すれば死に至る可能性もあります。予防法を知って、それを実践することで、完全に防ぐことができます。 応急処置を知っていれば、重症化を回避し後遺症を軽減できます。熱中症かな?と思ったら、当院へご相談ください。
原因
熱中症を引き起こす条件は、「環境」と「からだ」と「行動」によるものが考えられます。「環境」の要因は、気温が高い、湿度が高い、風が弱いなどがあります。「からだ」の要因は、激しい労働や運動によって体内に著しい熱が生じたり、暑い環境に体が十分に対応できないことなどがあります。その結果、熱中症を引き起こす可能性があります。
人間の身体は、平常時は体温が上がっても汗や皮膚温度が上昇することで体温が外へ逃げる仕組みとなっており、体温調節が自然と行われます(下図)。
熱中症を引き起こす3つの要因:
環境:
からだ:
行動:
疫学
総務省消防庁報告データによると、全国で6月から9月の期間に、熱中症で救急搬送された方は、暑い夏となった2010年は56,119人、2013年は58,729人で、年齢層別では65歳以上の高齢者が最も多く2013~2017年は全体の46 ~ 50%で推移しています。熱中症患者の発生は、高温の日数が多い年や異常に高い気温の日が出現すると発生が増加すします。ここ数年、特に2010年以降は大きく増加しています。
熱中症は日常生活、運動中、作業中等様々な場面において発生していますが、年齢別に見ると中高校生では運動中、成年では作業中、高齢者では住宅で多く発生しています。近年、家庭で発生する高齢者の熱中症が増えており、高齢者では住宅での発生が半数を超えています。2016年の厚生労働省人口動態統計では、死亡者のうち家庭が38.8%を占めており、家庭で発生する高齢者の熱中症に対する対策の必要性が高まってきています。
厚生労働省人口動態統計では、熱中症による死亡数は、1993年以前は年平均67人ですが、1994年以降は年平均492人に増加しています。これは、夏期の気温が上昇していることが関連しているとみられます。記録的な猛暑で熱中症による死亡者が最も多かった2010年は1,745人(男 940人、女 805人)でした。年齢層ごとの発生は、15~19歳はスポーツ、30~59歳は労働、65歳以上は日常生活での発生が多いと考えられます。0~4歳は45年間で288件でありそのうち0歳が158件(55%)で自動車に閉じ込められた等の事故でした。しかし、近年は男性の死亡数も、女性と同様に80~84歳を中心とした分布になっており、熱中症死亡総数に占める65歳以上の割合は、1995年は54%でしたが、2008年は72%、2015年は81%に増加しており、高齢者の割合が急増しています。
症状
「暑熱環境にさらされた」という状況下での体調不良はすべて熱中症の可能性があります。軽症である熱失神は「立ちくらみ」、同様に軽症に分類される熱けいれんは全身けいれんではなく「筋肉のこむら返り」です。どちらも意識は清明です。中等症に分類される熱疲労では、全身の倦怠感や脱力、頭痛、吐き気、嘔吐、下痢等が見られます。最重症は熱射病と呼ばれ、高体温に加え意識障害と発汗停止が主な症状です。けいれん、肝障害や腎障害も合併し、最悪の場合には早期に死亡する場合もあります。
診断
状況や症状から診断は比較的容易ですが、発熱や意識障害を来す疾患の鑑別が必要となります。肺炎、腎盂腎炎、敗血症、髄膜炎、脳炎などの感染症、甲状腺機能亢進症、悪性症候群などを鑑別します。搬送先医療機関にて血液検査、腰椎穿刺、頭部CTなどが必要となります。
初期治療
中等症、重症の場合は初期対応を行いつつ提携医療機関へ搬送させていただきます。軽症の場合はクリニックにて安静、冷却、経口的に水分摂取、Na補給、必要に応じて輸液を行います。状態が改善すれば帰宅が可能です。
熱中症は一刻を争う緊急疾患であり、医療機関へ受診されるまでの応急処置が重要です。以下の応急処置もご参照ください。
参考文献:
「熱中症環境保健マニュアル 2018」(環境省) (www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php)を加工して作成
「熱中症予防情報サイト」(環境省) (http://www.wbgt.env.go.jp/doc_prevention.php)を加工して作成
内科救急診療指針 1st Edition(社)日本内科学会, 2011.