糖尿病

糖尿病とは

国民の5人に1人以上が患者か、もしくは予備軍といわれている国民病です。糖尿病とは膵臓から分泌されるインスリンの作用不足のためにブドウ糖が有効に使われず、長い間血糖値が高くなっている状態をいいます。糖尿病を治療せずに放置していると様々合併症を引き起こします。3大合併症である腎症(発症25年~で腎不全となり人工透析が必要となります)、網膜症(失明)、神経障害のほかに、足壊死、脳卒中、心疾患、癌や認知症など様々な疾患のリスクが上昇します。糖尿病はあなたの生命を脅かし、人生を大きく変えてしまう疾患です。すでに糖尿病をお持ちの方、健診で糖尿病が疑われる方、気になる症状がおありの方は、当院へご相談ください。

症状

糖尿病初期には症状はほとんどありません。ある程度進行し著しい高血糖を来すようになると、口渇(のどが渇く)、多飲、多尿、頻尿などを来します。血糖値が高くなるため、血液の濃度が濃くなります。すると体は、細胞の水分を血液中に移動させて、血液中のブドウ糖濃度を薄めようとします。その結果、細胞が脱水状態となり、喉が渇いてしまい、水分をよく飲むようになるため、多尿が起こります。また、脱水状態から皮膚の乾燥も見られます。インスリンの分泌が高度に障害されてくれば、糖を取り込む働きが悪くなり、体重が減少してしまいます。

糖尿病が進行して合併症が起こってくれば、それによる症状も出現してきます(合併症の項を参照)。

糖尿病の主な症状

食べても痩せていく

甘いものが急にほしくなる

とても喉が渇く

頻尿(おしっこの回数が多い)

おしっこの量が多い

尿のにおいが気になる

尿が出にくい

残尿感がある

全身がだるく、疲れやすい

肌がかさつく、かゆい

手足がしびれる

視力が落ちてきた

立ち眩みがする

足がむくむ

火傷や怪我の痛みを感じない

診断

健康な人では食事の有無にかかわらず血糖値は70~140mg/dlと狭い範囲でコントロールされています。それに対して、朝食前(空腹時)の血糖値が126mg/dl以上、あるいは食後の血糖値が200mg/dl以上の場合は糖尿病が強く疑われます(糖尿病型といいます)。同時に採血した血液のHbA1c(1~2か月間の血糖値を反映)が6.5%以上なら、糖尿病と診断されます。またHbA1cの値にかかわらず、糖尿病に典型的な口渇、多飲、多尿、体重減少などの症状、もしくは網膜症があれば糖尿病と診断されます。しかし、その時に糖尿病と診断されなくても、別の日にもう一度血糖値あるいはHbA1cが異常であれば、糖尿病と診断されます。空腹時や食後の血糖検査だけで診断がつかない場合(例えばHbA1cは異常だが空腹時や食後の血糖値は異常なしの場合)には、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行います。微炭酸のブドウ糖液(75gのブドウ糖を含む)を飲んでいただき、2時間後の血糖値が200mg/dl以上であれば糖尿病型と診断(HbA1cが6.5%以上なら糖尿病と診断)されます。

原因

糖尿病の原因には以下の4つがあります。

1型糖尿病:インスリンを作る細胞が、ウイルス感染などをきっかけに破壊されて、体の中のインスリンの量が絶対的に不足して発症します。発症年齢は25歳以下の若年者に多く、急激に発症するのが特徴です。急に口渇、多飲、多尿、体重減少が見られた場合は、速やかに医療機関を受診してください。全糖尿病患者の10%程度を占めます。特に家族歴は関係なく、生活習慣との関係もありません。治療にはインスリンが欠かせません。

2型糖尿病:遺伝でインスリンが出にくい体質を持つ、また運動不足や脂肪の過剰摂取などの生活習慣により、インスリンの働きが悪くなる(インスリン抵抗性)といった条件が組み合わさって発症します。我が国の糖尿病患者の90%以上を占めます。40歳以上で肥満の方が多いという特徴があります。

その他の原因による糖尿病:急性膵炎、慢性膵炎、膵癌、膵切除後などの膵疾患、先端巨大症、甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫などの内分泌疾患、慢性肝炎や肝硬変などの肝疾患、ステロイド使用(ステロイド糖尿病と呼ばれる)などの薬剤性があります。高血圧と同時に糖尿病が見られた場合は、クッシング症候群、先端巨大症、褐色細胞腫を疑います。

妊娠糖尿病:妊娠中に初めて認識された糖尿病には至っていない耐糖能低下を妊娠糖尿病といいます。経口ブドウ糖負荷試験で空腹時92mg/dl以上、負荷後1時間180mg/dl以上、負荷後2時間153mg/dl以上のいずれか1つでも満たせば妊娠糖尿病と診断されます。

合併症

糖尿病の合併症には代表的なものに以下のものが挙げられます。

網膜症:眼の網膜という場所に異常血管を生じるのが網膜症です。糖尿病発症から5年後程度出現し始めます。血糖コントロールが悪いと、ほぼ7,8年で半数以上が発症します。成人の失明の原因の第2位となっており、早期発見と血糖コントロールが重要です。当院へ受診される糖尿病患者様すべてに対し、定期的な眼科受診を指導させていただいています。網膜に増殖性の変化(血管新生や出血性変化)が見られれば、光凝固治療が行われます。

腎症:腎臓の糸球体という部分の毛細血管が悪くなり、腎臓の機能が低下します。人工透析になる原因の1位がこの糖尿病腎症です。糖尿病発症から6年~10年で顕性蛋白尿が出現し、25年~30年で末期腎不全、いわゆる透析が必要な状態となってしまいます。糖尿病腎症には尿のアルブミンというたんぱく質の一種が漏れ出る量と腎臓の濾過量(GFR、いわゆる腎機能)によって1期から5期まで分けられています。1~2期の初期であれば血糖コントロールや血圧のコントロールによって腎症の改善が期待できるため、定期的な経過観察、早期発見が重要です。3期になると腎症の進展が不可逆的となってしまいますが、進行を遅らせるために、塩分制限や蛋白制限などの食事療法、厳格な降圧療法や血糖コントロールが必要となります。当院では糖尿病患者様すべてに対して、1か月に1回程度の腎機能検査、尿検査を行い、腎症の早期発見早期治療に努めています。

神経障害:糖尿病の三大合併症の中で最も頻度が高く、一番早期に出現してきます。糖尿病診断後1年以内に7%、罹病期間25年で50%出現します。手足の違和感、感覚異常、しびれ、怪我や火傷の痛みに気づかない等、手足の末梢神経障害の症状が出ます。 そのほか筋肉の萎縮、筋力の低下や胃腸の不調、発汗異常、立ちくらみ、排尿障害、勃起障害(ED)等、様々な自律神経障害の症状も出ます。

足壊疽:末梢神経障害のために疼痛を感じず、自覚症状が乏しいために、たこや傷、やけどなどのささいな足の炎症が足の潰瘍や壊疽にまで発展することがあります。また動脈硬化が進んでおり、足の末梢への血流が悪くなっており、傷の治りが悪くなります。また高血糖により感染が起きやすくなっています。糖尿病患者さんは、足の病気の予防のために、日頃から足のケアを行うことが重要です。

動脈硬化:糖尿病患者さんは動脈硬化が早く進行します。動脈硬化が進行すると、血管が詰まりやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などの重篤な疾患を引き起こします。予防するためには血糖コントロールに加えて、血圧管理、禁煙、脂質異常症の管理が必要です。また動脈硬化の進展具合を定期的にチェックし、早期に診断、治療を行うことが重要です。当院では心電図や心エコー検査、頸動脈エコー検査を定期的に行い動脈硬化を評価します。また必要であれば頭部MRI検査、専門医療機関への紹介も考慮させていただきます。

感染症:糖尿病患者さんは血糖値が高くなっているため、様々な感染症にかかりやすくなっています。また一度かかると治りにくかったり、重篤化することが知られています。

合併症を予防するために

糖尿病の合併症を防ぐことで、健康な方と変わらない生活を送ることができます。そのためには適正体重を保ち、血糖値を適切にコントロールすることが重要です。また適切な血圧管理、血清脂質管理も重要です。

血糖コントロール:血糖値の測定も重要ですが、血糖コントロールの指標として最も重視されるのがHbA1cという値です。HbA1cとは過去1,2か月間の血糖値を反映します。年齢や、病状、生活環境などに応じて個別に目標値を設定しますが、当院ではガイドラインなどに従い以下の指標を基準にします。合併症を予防するために、まずはHbA1cを7.0未満にコントロールします。高齢者の場合もガイドラインに従ってもう少し緩い目標値が設定されます。当院では院内で血糖値やHbA1cの測定が可能ですので、同日に結果説明と治療方針の変更が可能です。

体重コントロール:肥満の方はインスリンの働きが悪くなっていますので(インスリン抵抗性)、体重を適正、もしくは数kg減量するだけで糖尿病が改善します。BMIは自分の体重が適正かどうかを判断する指標で、体重㎏÷(身長m x身長m)で計算されます。BMI22くらいが適正体重でで、25以上の方は肥満と診断されます。肥満のある糖尿病患者さんには、まず食事療法や運動療法などの生活習慣の改善、減量を指導させていただきます。減量することで血糖値だけでなく、血圧や脂質異常なども改善します。

血圧コントロール:収縮期血圧130mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満を目標にします。生活習慣の改善を指導し、改善がなければ薬物療法を開始します。

血清脂質コントロール:糖尿病の方は動脈硬化が進みやすいため、通常より目標値が低く設定されています。冠動脈疾患の既往がない場合、LDLコレステロールは120mg/dl未満、冠動脈疾患の既往がある場合は100mg/dl未満に設定されています。新しい動脈硬化予防ガイドラインでは、家族性高コレステロール血症、急性冠症候群、糖尿病でも他の高リスク病態を合併する時は、LDLコレステロール70mg/dl未満という厳格な値に設定されました。

2型糖尿病の治療

糖尿病は早期発見・早期治療、そして治療の継続が何より大切です。健診などで糖尿病を指摘された場合など糖尿病の初期治療は、薬での治療を始める前に、まず生活習慣の見直しを行います。そして、食事療法を開始し、運動療法と組み合わせながら血糖値の改善をはかります。糖尿病の初期状態では、食後の血糖値だけに異常がみられます(=食後高血糖)。この早い時期から食事療法と運動療法を開始し、良好な血糖コントロールを維持することにより、病気の進展を防ぎ、合併症を起こすことなく、健常な場合とほぼ同様の生活を生涯にわたり営むことが可能になります。糖尿病は、治療を放置したり、発見が遅れたりして合併症が出現してしまうと生活の質の低下につながり、最悪で失明や心血管病の発症などをきたし命に関わることになりかねません。糖尿病の治療方法は主に3種類です。

食事療法:糖尿病の最も効果的で重要な治療方法です。適切な分量の食事で、必要とする栄養を摂取できるようにコントロールします。 特に食べてはいけない食品があるわけではありませんが、外食や間食、アルコール等は1日に摂取するエネルギー量が過剰になりやすいので、注意が必要です。当院ではコントロール不良の患者様に対して、必要に応じて食品交換表や基礎カーボカウント、応用カーボカウントを用いた食事療法を行っています。

運動療法:食事療法と同様、糖尿病の基本となる治療方法です。運動によってブドウ糖や脂肪酸の体内での利用を促進させ、血糖値の低下、およびインスリン抵抗性の改善を行います。但し、合併症がある場合、薬剤で治療している場合は運動が制限されることもありますので、医師の指示に従ってください。

薬物療法:糖尿病の薬物療法には、経口血糖降下薬とインスリン注射があります。1型糖尿病ではインスリン注射をします。2型糖尿病では食事療法や運動療法で改善されない時に、経口血糖降下薬やインスリン注射を使います。特にインスリン注射は、不足している、もしくはうまく作用していないインスリンを補い、自分の膵臓を休める役割もあります。したがって、最も体に優しい治療法です。決して糖尿病がひどくなったから用いるものではありません。