水痘(水ぼうそう)

水痘とは

水痘は、俗に言う「水ぼうそう」で水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus;VZV)によって起こる急性の伝染性疾患です。冬から春にかけて2歳から9歳までの児に好発し、全身に発疹、水疱が出現します。19世紀の終わりまでは、水痘と天然痘は明確に区別されていませんでした。1875年 Steinerによって、水痘患者の水疱内容を接種することによって水痘が発症することが示され、1888年von Bokayによって、水痘に感受性のある子どもが、帯状疱疹の患者との接触によって水痘が発症することが確認されました。1954年にThomas Wellerによって、水痘患者および帯状疱疹患者いずれの水疱からもVZVが分離されることが確認されました。その後の研究によって1970年代に日本で水痘ワクチンが開発され、現在水痘の予防に使用されています。

疫 学

水痘ウイルスの自然宿主はヒトのみですが、世界中に分布し、その伝染力は麻疹よりは弱いですが、ムンプスや風疹よりは強いとされ、家庭内接触での発症率は 90%と報告されています。発疹出現の1〜2日前から出現後4〜5日、あるいは痂皮化するまで伝染力があります。1999年4月の感染症法施行後の感染症発生動 向調査によると、約3,000の小児科定点医療機関から毎週1,300〜9,500例の報告があります。季節的には毎年12〜7月に多く、8〜11月には減少 しており、罹患年齢はほとんどが9歳以下です。

病原体

水痘帯状疱疹ウイルスはヘルペスウイルス科のα亜科に属するDNAウイルスで、他のヘルペスウイルスと同様に初感染の後、知覚神経節に潜伏感染します。ウイルスは通常気道粘膜から侵入し、鼻咽頭の侵入部位と所属リンパ節にて増殖した後、感染後4〜6日で一次ウイルス血症を起こします。これによりウイルス は他の器官、肝、脾などに散布され、そこで増殖した後二次ウイルス血症を起こし、皮膚に水疱を形成します。ウイルスは発疹出現の5日前ころから1〜2日後ま で、末梢血単核球から分離されます。

症状

潜伏期は2週間程度(10〜21日)ですが、免疫不全患者ではより長くなることがあります。成人では発疹出現前に1〜2日の発熱と全身倦怠感を伴うことがありますが、子どもでは通常発疹が初発症状です。発疹は全身性で掻痒を伴い、紅斑、丘疹を経て短時間で水疱となり、痂皮化(かさぶた)します。通常は最初に頭皮、次いで体幹、四肢に出現しますが、体幹にもっとも多くなります。数日にわたり新しい発疹が次々と出現するので、急性期に は紅斑、丘疹、水疱、痂皮のそれぞれの段階の発疹が混在することが特徴です。またこれらの発疹は、鼻咽頭、気道、膣などの粘膜にも出現することがあります。 臨床経過は一般的に軽症で、倦怠感、掻痒感、38度前後の発熱が2〜3日間続く程度であることが大半です。成人ではより重症になり、合併症の頻度も高 いです。通常呼吸器症状や胃腸症状を伴うことはありません。初感染からの回復後は終生免疫を得て、その後に野生株に暴露された場合には、臨床症状を起こすことなく抗 体価の上昇をみます。

合併症の危険性は年齢により異なり、健康な小児ではあまりみられませんが、15歳以上と1歳以下では高くなります。1〜14歳の子どもでの死亡率は10万あた り約1例ですが、15〜19歳では2.7例、30〜49歳では25.2例と上昇します。合併症として、皮膚の二次性細菌感染、脱水、肺炎、中枢神経合併症 などがあります。水痘に合併する肺炎は通常ウイルス性ですが、細菌性のこともあります。中枢神経合併症としては無菌性髄膜炎から脳炎まで種々あります。脳炎では 小脳炎が多く、小脳失調をきたすことがあるが予後は良好です。より広範な脳炎は稀で1万例に2.7程度ですが、成人に多く見られます。急性期にアスピリ ンを服用した小児では、ライ症候群が起こることがあります。免疫機能が低下している場合の水痘では、生命の危険を伴うことがあるため十分な注意が必要です。

病原診断

通常は臨床的に診断がなされますが、確認のためには実験室診断が行われます。

治療

通常、石炭酸亜鉛化リニメント(カルボルチンクリニメント;カチリ)などの外用が行われます。二次感染をおこした場合には抗生物質の外用、全身投与が行わ れます。抗ウイルス剤としてアシクロビル(ACV)があり、重症水痘、および水痘の重症化が容易に予測される免疫不全者などでは第一選択薬剤となります。この場合、15mg/kg/日を1日3回に分けて静脈内投与するのが原則です。一方、免疫機能が正常と考えられる者の水痘についても、ACVの経口投与は症状を軽症化させるのに有効であると考えられており、その場合、発症48時間以内に50〜80mg/kg/日を4〜5日間投与するのが適当であるとされています。しかし、全ての水痘患者に対してルーチンに投与する必要はないと思われます。

予防

本疾患はヒト−ヒト感染によるため、その予防は感染源のヒトとの接触をさけることが重要です。しかし水痘ウイルスは症状が出る1,2日前から排出され、感染力も非常に強いため、防ぐことは容易ではありません。実際に家庭内接触での発症率は 90%と報告されています。

弱毒化生ワクチンが平成26年10月から定期接種化されており、無料で受けることができます。1歳から3歳までの子供が対象です。1回の接種での抗体獲得率は約92%で、2回目の接種で軽症の水疱も予防できます。副反応としては、軽度の局所の発赤、腫脹(小児では19%、成人では24%)が主なもので、水痘様発疹の出現は4〜6%とされていますが、発疹の個数は5個程度でほとんどは斑丘疹です。全身性の副反応は稀です。可能な限りワクチンを接種して感染を防ぎましょう。

水痘が流行している施設や家族内での予防については、患者との接触後できるだけ早く、少なくとも72時間以内に水痘ワクチンを緊急接種することにより、 発症の防止、症状の軽症化が期待できます。浅野らの研究によると、家族内感染での発症予防に関し、予想発症日の1週間前からACVを予防内服 (40mg/kg/日、7日間)することにより症状を抑え、かつ免疫反応を獲得することが報告されています。ただし、予想発症日から約2カ月後にVZV抗体 の有無を確認しておく必要があり、獲得が見られなければ、その時点で水痘ワクチンを接種しておくことが望まれます。

感染症法における取り扱い(2012年7月更新)

定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)は週毎に保健所に届け出なければなりません。

学校保健安全法における取り扱い(2012年3月30日現在)

第2種の感染症に定められており、すべての発しんが痂皮化するまで出席停止とされています。ただし、病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りではありません。
また、以下の場合も出席停止期間となります。
・患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
・発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
・流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

 

参考文献:「水痘とは」(国立感染症研究所)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/418-varicella-intro.html)を加工して作成