潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜(最も内側の層)にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性腸疾患です。特徴的な症状としては、下血を伴うまたは伴わない下痢とよく起こる腹痛です。病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がります。良くなったり、悪くなったりを繰り返す原因不明の慢性疾患で、わが国では指定難病に指定されています。この病気は病変の拡がりや経過などにより下記のように分類されます。
1)病変の拡がりによる分類:全大腸炎、左側大腸炎、直腸炎
2)病期の分類:活動期、寛解期
3)重症度による分類:軽症、中等症、重症、激症
4)臨床経過による分類:再燃寛解型、慢性持続型、急性激症型、初回発作型
疫学
わが国の潰瘍性大腸炎の患者数は166,060人(平成25年度末の医療受給者証および登録者証交付件数の合計)、人口10万人あたり100人程度であり、米国の半分以下です。しかしながら年々増加の一途をたどっており、毎年約10,000人ずつ発症しています。世界的には欧米諸国、北欧などの先進国に多く見られます。
医療受給者証および登録者証の交付件数の推移(合計)
発症年齢のピークは男性で20~24歳、女性では25~29歳にみられますが、小児から高齢者まで発症します。男女比は1:1で性別に差はありません。
原因
原因は明らかになっていません。これまでに腸内細菌の関与や本来は外敵から身を守る免疫機構が正常に機能しない自己免疫反応の異常、あるいは西洋型の脂肪分や肉類の多い食生活への変化の関与などが考えられていますが、まだ原因は不明です。潰瘍性大腸炎は家族内での発症も認められており、何らかの遺伝的因子が関与していると考えられています。欧米では患者さんの約20%に炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎あるいはクローン病)の近親者がいると報告されています。近年、世界中の研究者によりこの病気の原因を含めた特異的な遺伝子の探索が続けられていますが、現時点では遺伝に関する明解な回答は得られていません。遺伝的要因と食生活などの環境要因などが複雑に絡み合って発病するものと考えられています。
症状
下痢や血便が認められます。痙攣性または持続的な腹痛を伴うこともあります。重症になると、発熱、体重減少、貧血などの全身の症状が起こります。また、腸管以外の合併症として、皮膚の症状、関節や眼の症状が出現することもあります。また症状が強い活動期と、症状がない寛解期があります。
臨床経過による分類:以下のように分類されます。再燃寛解型が最多です。
重症度の分類:臨床症状や検査所見をもとに重症、中等症、軽症に分類されます。重症とは1, 2のほかに、3または4のいずれかを満たし、かつ6項目のうち4項目を満たすものとなります。重症患者さんは入院での治療が勧められます。
劇症とは:①重症基準を満たす、②1日15回以上の血性下痢、③38度以上の高熱が続く、④10,000/mm3以上の白血球増多、⑤強い腹痛、の5項目すべてを満たすものとなります。緊急入院にて速やかな治療が必要となります。
診断
潰瘍性大腸炎の診断は症状の経過と病歴などを聴取することから始まります。最初に、血性下痢を引き起こす感染症と区別することが必要です。下痢の原因となる細菌や他の感染症を検査し、鑑別診断が行われます。その後、患者さんは一般的にX線や内視鏡による大腸検査を受けます。この検査で炎症や潰瘍がどのような形態で、大腸のどの範囲まで及んでいるかを調べます。さらに"生検"と呼ばれる大腸粘膜の一部を採取することで、病理診断を行います。潰瘍性大腸炎は、このようにして類似した症状を呈する他の大腸疾患と鑑別され、確定診断されます。
当院でも潰瘍性大腸炎が疑われる方は、大腸内視鏡検査による画像診断(以下参照)、生検、便培養検査、血液検査を行い、確定診断します。
治療
原則的には薬による内科的治療が行われます。しかし、重症の場合や薬物療法が効かない場合には手術が必要となります。
内科的治療
現在、潰瘍性大腸炎を完治に導く内科的治療はありませんが、腸の炎症を抑える有効な薬物治療は存在します。治療の目的は大腸粘膜の異常な炎症を抑え、症状をコントロールすることです。
潰瘍性大腸炎の内科的治療には主に以下のものがあります。
5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)製薬:
5-ASA製薬には従来からのサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)と、その副作用を軽減するために開発された改良新薬のメサラジン(ペンタサやアサコール)があります。経口や直腸から投与され、持続する炎症を抑えます。炎症を抑えることで、下痢、下血、腹痛などの症状は著しく減少します。5-ASA製薬は軽症から中等症の潰瘍性大腸炎に有効で、再燃予防にも効果があります。
副腎皮質ステロイド薬:
代表的な薬剤としてプレドニゾロン(プレドニン)があります。経口や直腸からあるいは経静脈的に投与されます。この薬剤は中等症から重症の患者さんに用いられ、強力に炎症を抑えますが、再燃を予防する効果は認められていません。
副腎皮質ステロイドは様々な副作用があり、ステロイド抵抗例も多いことから、当院では原則経口のステロイド剤は用いておりません。
血球成分除去療法:
薬物療法ではありませんが、血液中から異常に活性化した白血球を取り除く治療法で、LCAP(白血球除去療法:セルソーバ)、GCAP(顆粒球除去療法:アダカラム)があります。中等症以上の活動期の治療に用いられます。当院では施行しておりませんが、必要な場合は提携医療機関へご紹介させていただきます。
免疫調節薬または抑制薬:
アザチオプリン(イムラン、アザニン)や6-メルカプトプリン(ロイケリン)はステロイド薬を中止すると悪化してしまう患者さんに有効です。また、シクロスポリン(サンディミュン)やタクロリムス(プログラフ)はステロイド薬が無効の患者さんに用いられます。
抗TNFα受容体拮抗薬:
インフリキシマブ(レミケード)やアダリムマブ(ヒュミラ)といった注射薬が使用されます。効果が認められた場合は、前者は8週ごとの点滴投与、後者では、2週ごとの皮下投与が行われます。後者では自己注射も可能です。当院では積極的に生物学的製剤の導入、寛解維持療法を行っております。
外科的治療
多くの場合、内科治療で症状が改善しますが、以下のようなケースでは外科手術(大腸全摘術)が行われます。
(1)内科治療が無効な場合(特に重症例)
(2)副作用などで内科治療が行えない場合
(3)大量の出血
(4)穿孔(大腸に穴があくこと)
(5)癌またはその疑い
大腸全摘術の際には、小腸で人工肛門を作る場合もありますが、近年では、小腸で便をためる袋(回腸嚢)を作成して肛門につなぐ手術が主流となっています。その場合、術後は普通の人とほぼ同様の生活を送ることができます。
この病気はどういう経過をたどるのですか
多くの患者さんでは症状の改善や消失(寛解)が認められますが、再発する場合も多く、寛解を維持するために継続的な内科治療が必要です。また、あらゆる内科治療で寛解とならずに手術が必要となる患者さんもいます。また、発病して7-8年すると大腸癌を合併する患者さんが出てきますので、そのような患者さんでは、症状がなくても定期的な内視鏡検査が必要になります。しかし、実際に、一生のうちに大腸癌を合併する患者さんはごく一部です。重症で外科手術になる患者さんなど一部の患者さんを除けば、ほとんどの患者さんの生命予後は健常人と同等です。
難病情報センターホームページ(2017年12月現在)から引用