咽頭結膜熱(プール熱)

はじめに

咽頭結膜熱は発熱、咽頭炎、眼症状を主とする小児の急性ウイルス性感染症で、アデノウイルスによって引き起こされます。同じアデノウイルスによって起こる流行性角結膜炎、いわゆる「はやり目」も同じアデノウイルスですが型が違います。咽頭結膜熱はプールでの接触やタオルの共用により感染することもあるので、俗にプール熱と呼ばれることもあります。多くは夏期に流行しますが、最近は冬でも流行が見られています。感染力が非常に強いため、感染した場合には学校保健法にて出席停止となります。

疫学

咽頭結膜熱は通常夏期に地域全体で流行し、6月頃から徐々に増加しはじめ、7~8月にピークを形成します。本邦の感染症発生動向調査からみると、過去は夏期に流行の山がみられ、数年おきに流行規模が大小していますが、2003年から冬季にも流行がみられるようになりました。季節性流行の場合は、学童年齢の罹患が主であるとされていますが、感染症発生動向調査での罹患年齢からは、5歳以下が約6 割を占めています。

感染経路は、通常飛沫感染、あるいは手指を介した接触感染であり、結膜あるいは上気道からの感染です。プールを介した場合には、汚染した水から結膜への直接侵入と考えられています。

病原体

アデノウイルスは正20面体構造をとる2本鎖DNA ウイルスであり、エンベロープを有しません。51種類の血清型が知られていましたが、近年に52型以降が全塩基配列の決定による遺伝子型(genotype)として報告されるようになり現在67以上の型が報告されています。咽頭炎、扁桃炎、肺炎などの呼吸器疾患、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患、出血性膀胱炎などの泌尿器疾患から、肝炎、膵炎から脳炎にいたるまで、多彩な臨床症状を引き起こします。

咽頭結膜熱の流行をおこすのは多くは3型ですが、4型、7型、また2型、11型など他の型による場合もみられます。逆に、これらの血清型のアデノウイルスが感染しても、必ずしも咽頭結膜熱の症状を来すとも限りません。

臨床症状

39℃前後の発熱で発症し、頭痛、食欲不振、全身倦怠感とともに、咽頭炎による咽頭痛結膜炎にともなう結膜充血、眼痛、羞明、流涙、眼脂(めやに)を訴え、3~5日間程度持続します。眼症状は一般的に片方から始まり、その後他方にも出現します。また、結膜の炎症は下眼瞼結膜に強く、上眼瞼結膜には弱いとされます。眼に永続的な障害を残すことは通常はありません。また、頚部特に後頚部のリンパ節の腫脹と圧痛を認めることがあります。潜伏期は5~7日とされています。

アデノウイルスの血清型のうち、7型は心肺機能低下、免疫機能低下等の基礎疾患のある人、乳幼児、老人では重篤な症状となり、呼吸障害が進行し、さらに細菌の二次感染も併発しやすいことがあります。アデノウイルスの特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。特異的な薬剤の開発も進められていますが、抗アデノウイルス薬として入手可能な薬剤は今のところありません。

病原診断

確定診断には、患者の鼻汁、唾液、喀痰、糞便、拭い液や洗浄液、胸水、髄液などを検査材料としてウイルス分離を行うか、あるいはウイルス抗原を検出します。イムノクロマトキットや酵素抗体(ELISA)法での抗原検出キットが市販され、早期診断に使用されていますが、血清型別の判定はできません。しかしながら、PCR 法等による型別(molecular typing)が実施されるようになり迅速診断に有用で、簡便かつ迅速な型別判定に用いられています。

血清学的診断では急性期と回復期のペア血清を用い、赤血球凝集阻止反応(HI)、補体結合反応(CF)、中和反応(NT)などが行われます。CFは感度の点でやや劣り、しかも血清型の特定はできません。NT およびHI などは型特異的な測定法であるとされますが、実際には交叉反応があり、型の特定が困難なこともあります。そのことと、近年の遺伝子型に対応するため、PCR-シークエンシングによる型別が多く用いられるようになりつつあります。

治療・予防

特異的治療法はなく、対症療法が中心となります。眼症状が強い場合には、眼科的治療が必要になることもあります。

予防としては、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどです。消毒法に関しては、手指に対しては流水と石鹸による手洗い、および90%エタノ-ル、器具に対しては煮沸、次亜塩素酸ソーダを用います。消毒用エタノールの消毒効果は弱いことが知られています逆性石鹸、イソプロパノールには抵抗性なので注意を要します。7型による感染症では、心肺機能に基礎疾患を有する小児で重症化の危険性が高く、特に院内感染対策上重要です。

プールを介しての流行に対してはプールの塩素濃度を適正(遊離残留塩素濃度が0.4mg/l以上、1.0mg/l以下)に維持することが対策となります。

感染症法における取り扱い

咽頭結膜熱は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告がなされています。報告のための基準は以下の通りとなっています。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2 つの基準すべてを満たすもの

①発熱・咽頭発赤

②結膜充血

○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

学校保健法における取り扱い

学校安全法では、第二種伝染病に位置づけられており、主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止とされています。ただし、病状により伝染の恐れがないと認められたときはこの限りではありません。

 

参考文献:「咽頭結膜熱とは」(国立感染症研究所)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/323-pcf-intro.html)を加工して作成