バセドウ病

はじめに

甲状腺は前頸部、気管前面に位置する内分泌腺で、視床下部(TRH:甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)→下垂体(TSH:甲状腺刺激ホルモン)からの刺激により甲状腺ホルモン(T4、T3)を分泌します(下図)。甲状腺ホルモンは成長や代謝になくてはならないホルモンですが、過剰に分泌されると、様々な甲状腺中毒症症状を来します。バセドウ病はTSH受容体に対する自己抗体(TSH受容体抗体:TRAb)により、甲状腺が刺激されることにより、甲状腺が肥大し、甲状腺機能亢進症を来す疾患です(下図)。

 

症状

甲状腺腫、眼球突出、頻脈はMerseburg3徴といい有名ですが、その他にも下記に挙げるような様々な甲状腺中毒症状を来します。

①全身症状:倦怠感、易疲労感、体重減少、微熱

②消化器症状:下痢、食欲亢進

③循環器症状:動機、息切れ、頻脈、心房細動、高血圧

④神経筋症状:手指振戦

⑤皮膚症状:発汗など

⑥精神症状:いらいら、不眠など

⑦性腺異常:月経異常

診断

バセドウ病では自己抗体によりT3,T4が過剰に分泌されますが、過剰に分泌されたT3,T4により強いネガティブフィードバックがかかり、TRHやTSHが低値を示すことが特徴です。T3、T4が高値かつTSH低値であれば、TRAbを測定し、陽性であればバセドウ病が強く疑われます。当院では身体診察のほか、採血検査、甲状腺エコー検査を行い、ガイドラインに従って診断を進めていきます。また同時に甲状腺中毒症状を来す疾患の鑑別も行います。必要であれば提携医療機関にてシンチグラフィーを行い、確定診断に努めます。

治療

当院ではチアマゾール(MMI)を15mg/日から開始します。症状の改善やFT4、TSHの値をみながら、適宜増減を行います。状態が安定し、最少維持量(隔日1錠以下)まで減量できれば、さらに半年以上経過をみて中止について検討します。減量すると甲状腺機能が亢進する場合は、薬剤治療を続けるか、手術やアイソトープ治療に切り替えるか検討します。いずれにしてもいったん治療を開始すると、年単位の通院が必要となります。また一旦薬剤が中止できた場合も、再発する可能性があることから、定期的な受診が欠かせません。

副作用

チアマゾール(MMI)を開始するにあたり、最も注意しなくてはいけないのが副作用です(以下)。抗甲状腺薬は副作用が多いことで有名です。

重大な副作用無顆粒球症(頻度0.2%程度)、MPO-ANCA関連血管炎症候群、肝機能障害、多発性関節炎、インスリン自己免疫症候群、再生不良性貧血、間質性肺炎など

当院ではMMI投与開始前に副作用や対処方法について説明を行い、書面にて同意を得ます。特に重要なのが、無顆粒球症です。投与開始から2か月以内の発症が多く、発症した場合、白血球の成分である顆粒球(好中球)が著明に減少します。好中球は体内に侵入する細菌から感染を防ぐ役割があります。そのため顆粒球減少が起こると、感染症にかかりやすくなり、最悪敗血症にて死亡することもあります。そのため投与開始少なくとも2か月間は、2週間に1回以内の通院、採血検査を行います。また発熱、倦怠感、咽頭痛などの感染兆候を認めた場合は、速やかに医療機関を受診し、採血検査を受ける必要があります。無顆粒球症と診断されれば、直ちに甲状腺薬を中止し、入院治療が必要となります。その他の副作用も、いったん起こると死に至る場合があることから、早期発見のために定期的な通院、モニタリングが必要です。