心房細動とは
心臓の電気信号は右心房の洞結節で始まり、房室結節、ヒス束、右脚、左脚、プルキンエ線維を通って心室へ伝道します(下図)。これにより規則正しいリズム、心拍数(60~100回/分)が保たれています。心房細動は、心房が無秩序かつ高頻度に興奮し、胸部症状や脳梗塞などの様々な合併症を引き起こす頻脈性不整脈の一つです。厚生労働省第5次循環器疾患基礎調査では、罹患率は全対象者の 0.9%(男 性 1.2%、女性 0.7%)で、年齢が増すにつれて増加します¹。30歳以上の方の実に100人に一人は心房細動にかかっている計算になります。発症要因は加齢のほかに、高血圧、糖尿病、弁膜症、甲状腺機能亢進症、心不全や心筋梗塞などがあります。健常者でもストレスや不眠、喫煙、飲酒などで発症することもあります。
症状
無症状のこともありますが、動悸、胸痛、胸部不快感などを来します。心房が震えることで、心房の血流が滞り、心房内に血栓ができやすくなり、脳梗塞や腸間膜動脈塞栓症などの塞栓症を来す場合があり問題となります。また心不全の増悪因子となります。
種類
心房細動には以下の3種類があります。
①発作性(一過性)心房細動:短時間で自然に止まりますが、繰り返します。7日以内。
②永続性(持続性)心房細動:7日以上続き、自然には止まらないが、薬や除細動で止まるもの。
③慢性心房細動:薬や電気による除細動でも止まらない心房細動です。
診断
当院ではベッドサイドモニタ、12誘導心電図、ホルター心電図、超音波検査装置を完備しています。いずれの心房細動でも診断可能となっています。来院時には動悸などの症状がおさまっている方でも、ホルター心電図を行うことで発作性心房細動やその他の不整脈を診断することが可能です。また心臓超音波検査も即日対応可能です。
治療
高血圧、甲状腺機能亢進症、弁膜症などの基礎疾患がある場合は、まずそちらの治療が優先されます。症状がある場合は電気的除細動や薬物療法を行います。
電気的除細動:電気的除細動とは体外から心臓に電気ショックを与えることで、不規則だったリズムを規則正しいリズムに戻す治療法です。確実な方法ではありますが、痛みを伴うため、通常は麻酔下に行います。また心房内に血栓があると除細動の際に塞栓症を起こす危険性があるため、発症後48時間以上経過している場合は経食道心エコーや抗凝固療法をあらかじめ行っておく必要があります。除細動を行う場合は提携医療機関へご紹介させていただきます。
薬剤による除細動:各種抗不整脈薬(Vaughan Williams分類Ia群、Ic群)を経口、もしくは点滴にて用います。当院にてモニター監視下に施行可能です。しばしば繰り返す患者さんには、経口抗不整脈(ピルジカイニド100mg 発作時 など)を処方させていただき、発作時に自分で内服することも可能です。
再発予防:
1.薬物療法
①リズムコントロール:Ia群、Ic群の抗不整脈薬を投与し、調律を正常に維持(リズムコントロール)します。
②レートコントロール:β遮断薬、Ca拮抗薬、ジギタリスが使われます。心房細動は止まりませんが、心拍数を抑える(レートコントロール)ことができます。
2.カテーテルアブレーション
心房細動を根本的に治す治療法です。専門医療機関にて入院にて行います。足の付け根の血管からカテーテルという細い管を挿入し、心臓内の異常な電気の発生源を焼灼します。ご希望の方は適応などを検討したうえで、ご紹介させていただきます。
血栓塞栓症の予防
心房細動を放置すると左房内に血栓ができやすく、それが大動脈を通って脳や全身に達すると塞栓症を発症します。心原性脳梗塞は、急性期脳梗塞の20%以上を占め、しかも広範囲の梗塞を来すことから予後不良です。寝たきりや死亡の原因となります。心房細動の診療で最も重要なのが、この塞栓症の発症をいかに減らすかなのです。
当院ではCHADs²スコア、CHA2DS2 -VAScスコア³で脳梗塞の発症リスクを評価し、HAS-BLEDスコア4 を用いて出血のリスクの評価を行っています(下図参照)。総合的に判断して抗凝固療法を行います。
参考文献:
1.「第5次循環器疾患基礎調査」 (厚生労働省)www.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/data-kou18/data12/junkan-h12-6.pdf
2. Gage BF, et al.Validation of clinical classification schemes for preceding stroke: results from the National Registry of Atrial Fibrillation. JAMA 2001; 285: 2864 - 2870.
3. Camm AJ, et al. European Heart Rhythm Association; European Association for Cardio-Thoracic Surgery. Guidlines for the management of atrial fibrillation: the Task Force for the Management of Atrial Fibrillation of the European Sciety of Cardiology (ESC). Eur Heart J 2010; 31: 2369 - 2429.
4. Pisters R, et al. A novel user -friendly score(HAS-BLED)to assess 1-year risk of major bleeding in patients withh atrial fibrillation: the Euro Heart Survey. Chest 2010; 138: 1093 - 1100.
5.Lip GY, et al. Comparative Validation of a novel risk score for predicting bleeding risk in anticoagulated patients with atrial fibrillation: the HAS-BLED score. J Am Coll Cardiol 2011; 57: 173 - 180.